循環器

心不全療養指導士を取る方法

一度理学療法士になってしまえば、新しく資格を取る必要性はほぼありません。
ただし、働く施設によっては人事考課の対象になることはあり得ます。
転職にも多少有利に働くでしょう。

「どうせ自己研鑽するなら資格取得を目指そう」
というのも良いかもしれません。

というわけで、最近できたホットな資格について記事を書いてみました。
その名も「心不全療養指導士」

ちなみに、
僕は資格試験というリミットラインがないと勉強に身が入らないので、あえて挑戦してみたクチです(笑)

心不全療養指導士とは

2021年に日本循環器学会が新たに制定した制度。
心不全の発症、重症化予防のための療養指導に従事する医療従事者を増やそうぜ!という目的で作られたものです。

なんせ、日本では心不全患者が少なくとも100万人以上いて、2035年まで増え続ける見込み…のようですから。

詳しくはホームページをご参照ください
https://www.j-circ.or.jp/chfej/

資格取得の難易度について

まだ出来て間もない制度なので、試験の合格率は比較的高いです。

2020年の合格率:89%
2021年の合格率:86%

一回の受験者は1,900人ちょっと。
総合格者は3,420人。

合格者のうち理学療法士は825人、看護師1796人くらいです。

心不全療養指導士の取り方

資格取得に必要な条件は以下の4つ。

①日本循環器学会に入会
②認定試験用e-ラーニングの受講
③症例報告5例の提出
④認定試験(認定試験ガイドブックの購入)

それぞれ順番に解説していきます。

 

①日本循環器学会に入会

正会員と準会員の二つが存在し、それぞれ年会費が異なります。

◉入会金は2,000円(正会員、準会員)
●正会員の年会費は15,000円
●準会員の年会費は8,000円

正会員になると「循環器専門医誌」が年1回配布されます。

心不全療養指導士の資格を取るためであれば、準会員で十分です。
それでも8,000円の年会費は、資格更新を阻む一つの要因となりそうです。

②認定試験用e-ラーニングの受講

1講義10分前後の講義動画50個を、e-ラーニングで受講する必要があります。
受講料として5,000円が必要です。

・心不全の概念(15分)
・療養指導の基本(14分)
・心不全の予防活動(14分)
・心不全の診断,成因,検査(14分,13分,16分,9分,6分,9分,8分,10分)
・心不全の治療総論(7分,6分,9分,10分,8分,4分,5分,10分,11分,15分,10分)
・心不全の療養指導(15分,8分,9分,11分,12分,13分,8分,20分,7分,11分,5分,10分,12分)
・心不全ステージ別の療養指導(9分,9分,12分,10分)
・特殊な病態時の療養指導(18分)
・特殊な状況時の療養指導(8分)
・心不全の緩和ケア(17分,8分)
・病院と在宅の連携(10分,14分,9分,8分,11分)
・症例報告書の記載方法(15分,12分)

以上543分、約9時間ですね…

視聴期限が設けられているため、期限内に全て観ておく必要があります。
僕は二倍速にして通勤中に聞いてました(笑)

③症例報告5例の提出

心不全療養指導として関わった患者5人の経過について、レポートにして提出する必要があります。
レポートにはそれぞれテーマを設定し、かならず2テーマ以上で作成しなければなりません。

テーマについて説明する前に、心不全の進展ステージについて簡単に整理しておきましょう。

ステージAの患者:糖尿病、高血圧などの危険因子があるものの、心不全は未発症
ステージBの患者:虚血性心疾患、弁膜症などの器質的障害はあるが、心不全の症状はない
ステージCの患者:心不全を発症した、あるいは何度も入退院を繰り返している
ステージDの患者:あらゆる治療をしてもNYHAⅢ(日常生活以下の動作で疲労感)から回復しない

症例報告書に記載するテーマは以下の8つの中から2つ選ぶ必要があります。

(1)ステージA・B:心不全発症予防のための療養指導
(2)ステージC:初発心不全患者への療養指導
(3)ステージC:心不全を繰り返す患者への療養指導
(4)ステージD:難治性心不全患者に対する療養指導
(5)ステージD:人生の最終段階にある心不全患者への療養指導
(6)高齢心不全患者への療養指導
(7)心臓手術を受けた周術期患者への療養指導
(8)他職種連携、地域連携の強化が必要な療養指導

正直、これが一番時間かかります

通常の回復期病棟に勤務している僕のように、心不全が主疾患ではない患者さんに日々接しているセラピストにとって、対象者を選ぶこと自体が大変です。

ステージAなら糖尿病、脂質異常症、高血圧症を患っている人であれば対象になります。

逆に言うと、ほとんどの患者さんはステージAかBになってしまうため、ステージC以降の患者を選定すること自体が困難になる場合が考えられます。

僕はステージA4例、ステージC1例で作成しました。

レポート内容としては、

対象となる患者の心不全ステージはどこなのか?
心不全を発症するに至った原因はどこにあるのか?
ステージを判断した根拠として、どのような生理学的・医学的データがあるのか?

また、
どのように療養指導を行なっていくのか?
指導を行った帰結として、どのようになったか?
今後の課題としてなにを挙げるのか?

現病歴や生理学的データは、病院勤めであればカルテから引っ張ってくれば、さほど時間はかかりません。
BNPの値やエコー所見など、不明な場合は未記載でも許されます。

一方で、
「問題点の抽出」
「療養指導の実際」
「療養指導の結果」
「療養指導の評価・今後の課題」

上記4つの項目は文章記載が求められます(文字数制限はなし)。
特設サイトに例題が複数あるため、そこの文章を参考にしながら見様見真似で作成しました。

僕の場合は、1ヶ月2例のペースで、2ヶ月半くらいかけて作成しました。
レポートの打ち込み自体は、フォーマットがしっかりしているのでストレスなく可能でした。

④認定試験ガイドブックの購入

レポート作成にしても試験勉強にしても、専門のガイドブック購入は必須になります。

・心不全療養指導士認定試験ガイドブック(改訂第2版)
Amazonで3,960円です

大型本(21 x 1.3 x 29.7 cm)なので、電車で読むのに向いてません…
僕は何度も落っことしたり、読んだまま寝落ちしてページがくしゃくしゃになりました(笑)

④認定試験

受験料15,000円が必要です。

一つ肝になるのが、提出した症例報告が合格していないと認定試験が受けられない、という点です。
しかも、症例報告が合格したかどうかが判明するのは認定試験の約1ヶ月前

モチベーションを保つのが大変なんです。
結局、本格的に試験勉強を開始したのは症例報告の合格を知ってからになってしまいました。

2022年の認定試験日は12月18日(日)、マークシート方式で試験時間は2時間です。
試験会場は47都道府県に設置されます。
合格発表は3月上旬予定、とのこと。

 

資格取得に必要な費用、資格更新制度について

資格取得に必要となる費用をまとめました。

・日本循環器学会への入会金2,000円と準会員費8,000円
・e-ラーニングの受講費5,000円
・認定試験ガイドブック4,000円
・受験費用15,000円

合計32,000円

決して安くない金額です。

加えて、心不全療養指導士の資格は5年ごとの更新性です。
更新条件は以下の通り。

①日本循環器学会会員(正会員・準会員)を資格有効期間中継続し、年会費を完納している
②日本循環器学会学術集会に5年間の中で1回以上参加している
③5年間で50単位以上取得している
④症例報告5例の提出

循環器学会やセミナーへの参加が10単位であることを考えると、
最低5回参加しなければならないことになります。

さらに、
資格更新審査料が10,000円必要になります。

資格維持費として、
年会費8,000円に以下の金額を加えます。

・更新審査料10,000÷5年=2,000円
・学会/セミナー約7,000円×5÷5年=7,000円

合計は17,000円です。

毎年17,000円近くの費用を拠出して、5年ごとに症例報告を提出し続ける。
資格維持は結構な負担であると思います。

まとめ

資格取得によってキャリアップを図る目処がついている、
あるいは
心不全患者に対するリハビリテーションについて興味がある、

という方は取得を目指してもいいかもしれません。

僕がひとつ問題だと思っているのは、この資格試験の内容には心電図が含まれていません
エコー所見の見方も電解質異常をはじめとする内科的成分データの読み方も、ちらっと触れられているだけです。

つまり、
実際に心不全の患者のリハビリを実施し、運動プログラムを作成するためには、
この資格試験の中身だけでは不十分です。

心不全の病態自体を俯瞰し、これからの勉強の足掛かりにするためには非常に勉強になると思います。
認定試験用のガイドブックも文章が分かりやすく図も多いため、理解に窮する場面はほとんどありませんでした。

ネックになる資格維持費用については、上司に交渉する余地があると思います。

自己研鑽の結果として人事考課に反映させるのもひとつですが、
これからの時代、心不全を既往に持つ患者が増えるのは間違いありません。
病院にしても施設にしても、循環器について詳しい知識を持ったセラピストは必要になるはずです。

だからこそ、研修費を一部免除してくれる制度にあやかったり、
リハビリテーション科として心不全療養指導チームを立ち上げて実績を残し、維持費の一部を負担してもらう制度を作ったり、

いろいろとやり方はあると思います。

資格が必要なくなったら更新をやめればいい。
僕はそう考えています。
たとえ資格を失ったとしても、資格取得のために勉強した知識は絶対に自分を裏切りません。

そして、資格取得という目標がないと、なかなか勉強に身が入らないのも事実です(笑)
迷っているなら、一度チャレンジしてみることをおすすめします。